患者さんに運動指導をすると「普段からたくさん身体を動かしている」とおっしゃる方がいるのですが、詳しくお話を聞くと
・毎日台所に3時間立っている
・畑で草取りを頑張っている
・仕事で荷物を運んでいる
といった身体の使い方をしているケースがあります。
これらは「運動」というよりも「労働」に分類される動きです。
たしかに、運動学や生理学からみれば労働も運動も違いはありません。
重い物を持てば筋力トレーニングになりますし、歩き回ったりしていれば消費カロリーも増えます。
身体も疲れるので運動した感覚になります。
しかし、健康の維持やコンディショニングの面から考えると、労働と運動にははっきりとした違いがあります。
労働に分類される動き
労働の動きとは、簡単に言えば同じ姿勢・同じ動きの繰り返しです。
物を運ぶ、車の運転、農作業、草取り、立ち仕事、雪かき、などですね。
労働では使う筋肉と使わない筋肉の差が大きくなり、負担が特定の場所に集中します。
「腰が重い」「肩がこった」「足がだるい」といった疲れは労働による偏った動きが繰り返された結果です。
スポーツにおいても、労働と同様の影響が表れることがあります。
ハードなウェイトトレーニングや成長期のオーバーユース(使いすぎ)症候群などは スポーツの内容が「労働」に近く、関節への負担や筋肉の固さを生じているケースがあります。
身体の状態をリセットし、悪い動きの癖を改善したうえで、練習内容と量を見直す必要があります。
運動に分類される動き
健康に良い「運動」の特徴は、全身をまんべんなく、いろいろな使い方をすることです。
具体的には、ウォーキング、水泳、ヨガ、ラジオ体操などです。
少し心拍数が上がり汗ばむ程度の軽い内容がおすすめです。
全身運動での疲労は血流が促されるので回復しやすく、労働による局所疲労のリセットにも効果的です。
「ちょっとハードルが高いな・・・」という方は、普段しないような動作をするだけでも身体の状態はリセットされます。
例えば座っている時間が長い人は股関節が固まり腰痛が起きやすいので、意識的に歩いてみたり、股関節のストレッチをしてみる。
手を使う仕事の人は腕や胸の筋肉がこわばりやすいのでバンザイをして伸ばしたり肩甲骨のストレッチをしてみる。
他にも、後ろ向きで歩いてみたり、四つん這いで廊下を往復してみたり、1分間深呼吸をしてみたり、三十秒の片足立ちにチャレンジしてみたり・・・とゲーム感覚でいつもとは違う動きをしてみることをおすすめします。どれも実際に患者さんに指導している内容です。
労働の負担はため込むと慢性化する
上に書いた通り、少しの工夫で労働の負担はリセットできるのですが、水面下で溜まり続けると痛みやだるさなどの自覚症状となって表れます。
たまり続ける負担を減らさない限り自然に治ることはないので、「そのうち治るだろう」と放置すると、どんどん治りにくくなります。
腰痛や腱鞘炎などの労働が原因の症状は、早期に治療するのはもちろんですが、繰り返さないようにセルフケアも重要です。労働と運動の違いを意識して健康維持に役立ててください。