患者さんに症状の説明をする際に、「筋挫傷」「1度の靭帯損傷」といった小難しい言葉を使うと伝わりにくいことがあります。
私としては状態を正確に伝えたいのですが、
つまりアレだが?スジ違えだべ?!
そ…そうですね、靭帯が伸びてしまっているのでスジ違えともいうかもしれませんね。
な~んだ、いがった、いがった !そいだばすぐ治るな!
いえいえ、靭帯の損傷なのでしっかり治療しないと長引くこともありますよ。
・・・?
スジ違えと違うんだが?
…なんていうやりとりもしばしばあります。
痛みに名前が付くとホッとする心理があるのでしょうが、解剖学では正式に「スジ」と呼ばれる部分は体にはありません。つまり「スジ違え」というのはとてもあいまいな表現なのです。
スジで連想される組織としては、筋肉、靭帯、腱があります。
それぞれに違う役割があって、違う治療を選択する必要があります。
「ぜ~んぶスジだべ?」なんて言わずに(笑)、少しこれらの説明にお付き合いください。
患部の状態を知る事が治療の第一歩です!
筋肉
筋肉は伸び縮みをすることで関節を動かす役割があります。
スジを漢字で書くと「筋」になりますが、「首のスジをひねった」という場合は筋肉の損傷を指す事が多いです。
筋肉は血行が豊富で、比較的治りが早い組織です。2~3日で治ってしまうスジ違えはこの筋肉の軽い損傷だったという事が多いです。
筋肉の損傷は、症状に応じて、ストレッチをしたり動かすことが治癒を早める手助けになる場合もあります。
しかし、損傷が大きい場合はいわゆる「肉離れ」となり、安静・固定を施しながらしっかりとした治療が必要になります。
筋肉のスジ違えは「挫傷(ざしょう)」といいます。
靭帯
靭帯は関節を連結するバンドです。丈夫な繊維状の束で出来ていて、筋肉のように伸び縮みはしません。
足首をひねったりして「スジを伸ばしてしまった」場合など、関節のスジ違えの多くは、靭帯の損傷、いわゆる「捻挫(ねんざ)」の事になります。
靭帯は修復が遅い組織で後遺症も残りやすいため、治療には包帯やテーピングでの固定が必要になります。
捻挫した際に固定をせず、湿布を貼るだけの処置しかしないと、靭帯が伸びたままになり、関節がグラグラと不安定になります。
その結果、何度も捻挫を繰り返すようになります。(クセになる)
腱
腱は筋肉が伸び縮みする力を骨に伝えるワイヤーのような役割があります。大きな力に耐えられる、とても丈夫な組織です。
腱の痛みで多いのは、腱を包む周辺組織の炎症です。腱鞘炎やスポーツでの使い過ぎなどが原因になります。「手のスジが痛い」という訴えが腱鞘炎だったという場合も多いです。
腱周辺の痛みは小さな負担の繰り返しで起こる事が多いので、サポーター等で原因となった動きを制限しながら治療していきます。
腱には筋肉によって絶えず引っ張る力がかかっているので、痛みが長引くケースも多いのです。
・・・いかがでしたか?
一言に「スジ違え」と言っても内容は様々で、治療の方針も変わってきます。
骨折などに比べて軽いケガというイメージを持たれるかもしれませんが、治療が不十分だと骨折以上に長引いたりする厄介なものです。
「早く治ると思ったのに、『スジが違う』じゃないか!」とならないように、理解を深めて頂ければ幸いです。