当院にはスポーツをしている学生さんもたくさん来院されます。
症状や状態によっては、スポーツを休んで治療に専念した方がいいと指導する場合もあるのですが、学生さん本人や保護者の方の中には、「練習を休むのは悪いこと」という考えをお持ちの方も少なくありません。
「病院で安静にしなさいと言われたが、練習を休まないで治す方法はないか」と来院される方もいます。
競技によっては、練習を休むことでレギュラーから外されるかもしれない、チームメイトに迷惑がかかる、といった理由から、休むことに抵抗があるのかもしれません。
また、サボっていると思われるのが嫌だ、他のがんばっている人に置いて行かれる、他の人も痛みを我慢してやっている、といった強迫観念を持っている子もいます。
しかし、ケガをするのは誰にでもあり得ることですし、痛みを我慢して悪化させるよりも、少しの間練習を休んでしっかり治療をしてから復帰をする方がはるかに上達は早いはずです。
身体が痛くなるほど頑張った子が、治療のために一時練習を休むのを私は悪いことだとは思いません。
昔は「1日休むと取り戻すのに3日かかる」なんて言われたりもしましたが、これは全く逆の間違った常識です。
最近の研究では、マラソン競技の場合、休むのが5日までなら持久力は落ちないという統計もあるそうです。
また、最近はコロナの影響で部活が休みになったり、全体練習ができないといった学生さんが多かったですが、その結果、駅伝の新記録が連発されたり、高校野球のピッチャーの球速が上がったという報告もあります。適度に休むことでパフォーマンスが上がるという好例です。
スポーツでのトレーニングは体に負荷をかけることが目的ですが、その後休息をとって体が完全に修復されると前よりも身体機能が向上します。
休息をとらず負荷をかけ続けると、身体は限界を超えケガとなります。
練習は休むこととワンセットで効果が最大限に発揮されるのです。
学生スポーツはプロとは違い休息が軽視されがちですが、身体の発達の個人差も大きいですから、皆と同じ練習を強制せずにしっかりと休んで、限られた時間で効率の良い練習方法をする工夫が必要になるでしょう。
子供のうちは同じスポーツの反復練習をさせると身体の発達や技術の向上よりもケガのリスクの方が大きくなります。
特に十歳前後は運動神経の発達が盛んな時期なので、一つの競技に絞らず、様々なスポーツを経験させることで運動神経が良くなり、自分のイメージしたように体を動かせるようになりますし、バランスよく身体が発達します。
テニスの錦織圭選手は水泳・サッカー・野球の経験があるそうですし、サッカーのジダン選手の体幹の強さは子供の頃の柔道の経験によるものかもしれませんね。
同じくサッカーの澤穂希選手も十二歳まで水泳もしていたそうですが、みんなでワイワイやるのが好きだからとサッカーを選んだそうです。
例えば野球で肩を痛めたら、治療をしながらサッカーやプールで遊んだり、動画を見てイメージトレーニングをするのもいいと思います。
結果的にそれが身体操作の技術向上や精神の安定に役立ちます。
練習を休むのは遠回りに見えて、違う方法で色々なことを吸収できるパワーアップのチャンスなのです。
そして今が無理をしなくてはいけない時期なのか?本人にとって一番大切なことは何か?を見つめ直す機会にもなります。
もっと言えば、絵を描いたり、楽器を弾いたり、本を読んだり、違うグループの友達を作ったり、家族との時間を過ごしたり・・・いろいろな時間を楽しく過ごすことで子供の世界が広がるようなら、練習を休むのは悪いことではないと私は思います。
スポーツはその中のひとつであって、痛みを我慢してやるものではない、くらいの考え方でもいいのではないでしょうか。
スポーツに情熱を注いでいる親御さんからは甘い考えだと怒られそうですが(笑)